コンプライアンス研修の事例8選!テーマや研修設計のコツも解説

コンプライアンス研修は、業種や組織の特性に合わせた設計が求められます。特に、現場で役立つ実例や業界特有の取り組みを知ることで、自社の課題解決にもつながります。ここでは、さまざまな業種で実施されているコンプライアンス研修の事例をご紹介します。

目次

コンプライアンス研修で扱われている事例8選

近年、企業の信頼性や社会的責任がますます重視される中で、コンプライアンス(法令遵守)への取り組みは、あらゆる業界において経営の最重要課題のひとつとなっています。単に法令を守るだけでなく、社員一人ひとりが倫理観を持ち、主体的に判断・行動できる力を育てることが求められています。その実現のために多くの企業が実施しているのがコンプライアンス研修です。本記事では、製造業をはじめ、さまざまな業界で実際に導入されている研修事例を8つ紹介し、それぞれの工夫や学びのポイントを詳しく解説します。自社の取り組みに活かせるヒントを見つけたい方にとって、実践的かつ参考になる内容です。

製造業で導入されている事例

トヨタ自動車株式会社は、『コーポレートガバナンス報告書』で、コンプライアンスを経営基盤の一つと位置づけています。IRサイトで、法令遵守・倫理経営の推進体制や関係規程が整備されていることを明記し、以下のとおり、運用状況を公表しています。

1. 業務分掌の明確化を実施し、社内サイトで全従業員に対して公開することで、業務の見える化と、責任権限の透明性向上を進めています。また、入社時教育や各階層別教育において、「ものをよく観て」問題を発見し、「改善を続ける」企業文化を醸成しています。
2. コンプライアンスの統括責任者として、Chief Compliance Officerを任命しています。コンプライアンスに関する基礎知識の習得による全社コンプライアンス意識向上のため、新入社員をはじめ幅広い従業員を対象に教育を実施しています。専門部署が各部署の対応状況を点検の上、その結果を、サステナビリティ会議または取締役会等に報告しています。
3. コンプライアンスに関する様々な問題および疑問点を社外弁護士や社内担当者を通じて相談することができるスピークアップ相談窓口等の内部通報窓口を設置しています。当社は、相談に対して事実調査を行い、必要な措置を取っています。なお、当社は、これらの窓口への相談内容および対応結果を当社関係役員に報告しています。
(出典 トヨタ自動車株式会社『コーポレートガバナンス報告書』pp. 16-17)

「コンプライアンス基礎知識の習得による全社コンプライアンス意識向上のため」の研修とは、具体的には、「トヨタフィロソフィー」、「トヨタ基本理念」、「トヨタ行動指針」、「トヨタウェイ 2020」、「トヨタグループビジョン」に基づき、異常があれば立ち止まり改善することのできる、トヨタ社の内部統制システムに対する正しい理解を深める研修を実施していることが確認されます。

金融業で導入されている事例

三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社では、役職・職責に応じた階層別のコンプライアンス研修を体系的に実施しています。役員に対しては、経営管理体制の実効性を高めることを目的に、年1〜2回の研修を実施。経営層自らが高いコンプライアンス意識を持つことで、全社的な順守文化の醸成につなげています。

また、日本証券業協会の自主規制規則に基づき、営業責任者を対象とした研修を年1回実施。顧客対応や投資勧誘の適正化を目的に、現場の監督責任者としての役割を再確認させています。さらに、内部管理責任者を対象とした会議を年2回実施し、コンプライアンス施策の徹底と業務知識の標準化を図っています。これらの取り組みは、組織の健全性を保つための実効的な施策といえます。(出典 三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社「コンプライアンス体制」

教育業で導入されている事例

ベネッセホールディングスは、「Benesse=よく生きる」の企業理念に基づき、健全な経営と持続的成長を支えるため、リスクマネジメントおよびコンプライアンス体制をグループ全体で強化しています。中核となるリスク・コンプライアンス委員会は、各社のリスク評価を集約し、横断的な対策を企画・推進し、その結果は取締役会へ報告され、PDCAサイクルを通じた継続的改善が図られています。

また、違反行為の早期発見に向けて、匿名通報が可能な社外窓口を複数設置し、実効性の高い監視体制を構築するとともに、新入社員から管理職までの階層別研修やインサイダー取引防止教育を通じ、全社員の意識向上を図っています。腐敗防止においても、反社会的勢力排除や不適切な利益供与の禁止を規程化し、企業倫理の徹底に努めています。こうした多層的かつ実践的な仕組みにより、同社は高い透明性と信頼性を備えた企業運営を実現しています。
(出典 株式会社ベネッセホールディングス「リスクマネジメント・コンプライアンス」

小売業で導入されている事例

株式会社セブン&アイ・ホールディングスでは、コンプライアンスの徹底を企業行動指針の実践と結びつけ、従業員教育の中核に据えています。グループ各社はそれぞれの事業特性に応じたガイドラインを策定し、従業員が「信頼と誠実」の精神をどのように業務に落とし込むべきかを具体的に示しています。

入社時からマネジメント層までの各階層別集合研修では、企業行動指針の重要性をテーマに教育を実施し、2015年度からはグループ各社の社長や幹部を対象としたコンプライアンスセミナーを開催し、トップ層からの意識醸成にも注力しています。2016年度以降は、グループ従業員を対象にeラーニングやDVD視聴形式の研修も展開し、2023年度には延べ12,511人が受講しました。階層・職種に応じた継続的な学びにより、実効性あるガバナンス体制の維持と倫理的な企業文化の醸成を図っています。
(出典 株式会社セブン&アイ・ホールディングス「コンプライアンス」

運送業で導入されている事例

ヤマトホールディングス株式会社は、社会的インフラ企業としての責任を重く受け止め、法令遵守と高い倫理観を基盤にしたコンプライアンス体制を整備しています。特に、社員一人ひとりの意識向上を目的に、入社時から継続的な研修を実施し、ヤマトグループの「グループ企業理念」を軸とした倫理教育を実施するとともに、全国の事業所にポスター掲示やイラストを活用した注意喚起も行っています。

さらに、通報制度として社内外に「コンプライアンス・ホットライン」と「企業不正通報窓口」を設置し、匿名対応や報復禁止を徹底。2023年度には740件の通報が寄せられました。研修や社内報を通じた制度周知、評価制度との連動により、違反の未然防止と是正措置が確実に実施される体制を整えています。これらの施策は、ガバナンスの強化と企業価値の持続的な向上を両立させる基盤となっています。
(出典 ヤマトホールディングス株式会社「ガバナンス・コンプライアンス」

建設業で導入されている事例

清水建設株式会社は、建設業界が抱える複雑かつ多岐にわたる法的規制に対応するため、企業倫理の徹底とコンプライアンス意識の醸成に注力しています。同社では「論語と算盤」の精神を軸に、倫理・法令違反リスクへの対応を最重要課題の一つとして位置づけ、グループ全体で実効的な対策を講じています。具体的には、「企業倫理行動規範」の制定をはじめ、社長を委員長とする企業倫理委員会の設置、内部通報制度の整備、コンプライアンス体制の強化など、多層的な施策を推進。

また、経営幹部を対象とした企業倫理研修や、全従業員向けのコンプライアンス研修(eラーニング含む)を毎年実施し、組織内での倫理意識の向上に取り組んでいます。さらに、独占禁止法順守プログラムや社内報等による啓発活動を通じて、法令遵守の実践が日常業務に根づくよう支援しています。こうした取組みは、企業価値の維持・向上に直結する土台となっています。
(出典 清水建設株式会社「リスクマネジメント」

医療業で導入されている事例

武田薬品工業株式会社は、企業活動の根幹に「タケダイズム(誠実・公正・正直・不屈)」を据え、全従業員が倫理的な意思決定を行えるよう、包括的かつ実効性あるコンプライアンス研修を展開しています。その指針となるのが「タケダ・グローバル行動規準」です。この行動規準は、「患者中心・信頼構築・社会的評価の向上・事業発展」という4つの価値を基軸に構成され、研修ではこれらの価値観を判断基準として実践できるよう従業員に浸透させています。

特に「品質および環境・健康・安全」分野では、品質管理とコンプライアンスの連携を重視し、GMP(医薬品の製造管理及び品質管理の基準)とGDP(医薬品の適正流通基準)に準拠した高水準の研修が実施されます。グローバル・クオリティ部門は全社一貫の品質ガバナンスを推進し、従業員には継続的な学習環境と責任ある行動の徹底が求められます。このような多層的な研修と仕組みにより、倫理と品質を両立させる企業文化定着を図っています。
(出典 武田薬品工業株式会社「企業倫理とコンプライアンス」

介護業で導入されている事例

SOMPOホールディングス株式会社は、単なる法令遵守にとどまらず、社会からの高まる期待に応えるべく、全社的なコンプライアンス意識の醸成を重視した研修体系を構築しています。特に、管理職を対象とした「コンプライアンス総論研修」では、違反事例の分析を通じて、管理者の果たすべき役割や防止策の理解を深めます。また、全従業員向けには「ハラスメント研修」「不正防止研修」など、多様なリスクに対応するプログラムを1.5~3時間の枠で提供し、現場レベルでの実践力強化を図っています。

さらに、ワークショップ形式のグループ討議を導入することで、コンプライアンスを「自分ごと」として捉える視点を養成。企業倫理を実効性あるものとするために、業種や課題に応じた柔軟なカスタマイズも可能としています。SOMPOホールディングスのコンプライアンス研修は、組織全体でのリスク感度を高め、持続可能な経営を支える基盤として機能しています。
(出典 SOMPOホールディングス株式会社「コンプライアンス研修」

研修テーマは「時事性」と「実在する違反事例」で決まる

コンプライアンス研修の効果を高めるには、研修テーマに「時事性」と「実在する違反事例」を取り入れることが重要です。たとえば、最近業界で発生した不祥事や報道事例を教材として用いることで、受講者にとってより現実味のある学習となります。実際の違反事例を取り上げることで、「自分たちの業務にも起こり得る問題」として捉えやすくなり、当事者意識が芽生えやすくなります。

さらに、違反に至った経緯や背景、企業に与えた影響を詳しく学ぶことで、「もし自分が同じ状況に置かれたらどう行動すべきか」といった判断力や倫理観も養われます。コンプライアンス違反が発覚した際の社会的信用の失墜や法的リスクについても具体的に把握できるため、リスクに対する感度が高まり、実効性のある研修につながります。

効果的なコンプライアンス研修設計の工夫

コンプライアンス研修は、単なる知識の伝達ではなく、社員一人ひとりの行動変容と意識改革を目的とすべきものです。 法令遵守だけでなく、企業としての倫理的判断力や社会的責任の自覚を促すためには、設計段階から受講者の業務実態に即したアプローチが求められます。以下では、理解促進と実務活用を両立するための研修設計の工夫を、具体的な手法に沿って紹介します。

研修ツールを使い分ける

  • eラーニング 多拠点展開や時間的制約のある職場において有効であり、動画やクイズ形式を活用すれば、受講者の集中力を維持しやすい。
  • 集合研修 講師との対話やロールプレイなどの双方向的な学習により、参加者同士の意見交換を通じた気づきが得られる。
  • ケーススタディ 実際のトラブルや事件を基にした議論を行うことで、当事者意識を高めながら実務的判断力を養うことができる。
  • 動画教材 感情に訴えるストーリー型の映像は、抽象的な倫理問題や人間関係の課題に対して効果的であり、記憶への定着にも貢献する。

これらのツールを目的や受講対象に応じて適切に使い分けることで、情報の一方的なインプットだけでなく、自律的な思考や行動の変革を促す設計が可能になります。

業界内の事例など身近な問題を扱う

法令違反や倫理的な逸脱行為は、自分たちの業務とは無関係と思われがちです。しかし、実際に業界内で起こった事例を導入に活用することで、「自社でも起こりうる問題」であるという実感を持たせることができます。

例えば、「個人情報の誤送信」や「取引先との不適切な接待」など、身近なトラブルを取り上げ、その背景・組織的課題・再発防止策を分析させることで、参加者の危機意識が自然と高まります。また、過去の不祥事をもとに、「どのような行動が問題だったのか」「なぜ防げなかったのか」を議論させることで、研修のリアリティと行動変容の契機を強化できます。

理解度テストを導入する

研修の受講後に理解度テストを実施することで、受講者がどの程度内容を理解し、記憶に定着させているかを客観的に確認できます。単に点数を測るだけでなく、「正答できなかった項目がなぜ難しかったか」を分析することが、研修設計の改善にもつながります。

また、テスト結果をもとに補足資料や再学習機会を提供すれば、理解の浅い部分を重点的にフォローすることも可能です。こうしたPDCA的な視点での運用は、単発型の研修では得られない「学習の連続性」を生み出し、コンプライアンス文化の醸成にも寄与します。

研修後のアンケートを実施する

受講者アンケートは、研修の満足度を測るだけではなく、実務への応用可能性や理解度の深度を可視化する貴重なフィードバック手段です。

例えば、以下のような設問を設定することで、実効性のあるデータが得られます。

  • 「本研修は日常業務で活用できる内容でしたか?」
  • 「自身の業務に関連するリスクへの理解は深まりましたか?」
  • 「改善してほしい点や、追加してほしいテーマはありますか?」

こうした実務視点での問いかけによって、単なる知識確認ではなく、職場での具体的な行動にどうつなげるかを振り返るきっかけとなります。

「部門別」「職位別」にテーマを分ける

コンプライアンスリスクは部門や職位によって大きく異なるため、一律の研修では的外れになりかねません。たとえば営業職と管理職では、関与する法規や倫理的責任・判断権限が異なるため、テーマ設計にも差をつける必要があります。

  • 一般社員 ハラスメント防止・個人情報管理・情報セキュリティなど、基本的遵守事項を中心に構成。
  • 管理職 組織的に防止するための管理職の役割と責任、内部通報対応の重要性など。
  • 営業職 贈収賄リスク・下請法・契約書の確認・接待および贈答のルールなど、取引先との関係での注意点。

こうした分類により、研修の納得感が高まり、現場での実践行動に直結しやすくなります。

必要に応じて外注して研修を行う

社内リソースだけでは対応しきれない高度な法令解釈や、最新のリスクトレンド(生成AI、越境プライバシールールなど)に関しては、専門機関や外部講師による外注研修を活用するのが効果的です。

特に、以下のような状況では外部委託が有効です。

  • 内部に専門家が不在で、リスク評価が困難なテーマ(例 反グローバル贈収賄法)
  • 海外展開を見据えた国際法対応が必要なケース
  • コンプライアンス違反後の再発防止として、第三者による信頼回復措置が早急に求められる場合

また、外部研修は「外の目線」や「最新動向の把握」にもつながるため、社内教育の視野を広げ、制度全体のアップデートにも貢献します。

自社の課題に応じた研修を企画する方法

コンプライアンス研修は、単に汎用的な知識を伝えるだけではなく、自社が抱えるリスクや課題に即した内容であることが求められます。組織ごとに直面している問題や、従業員の行動特性は異なるため、画一的なプログラムでは受講者の当事者意識を醸成することは困難です。ここでは、自社固有の課題に焦点を当て、より実効性の高い研修を設計するための手順と工夫を紹介します。

「違反リスク」を洗い出す

研修テーマを効果的に設定するためには、まず社内に潜在するコンプライアンスリスクを明らかにする必要があります。これには、管理部門だけでなく、現場の第一線で働く従業員の視点が欠かせません。リスクの特定は「現場主導」で行うべきであり、部門責任者やキーパーソンへのヒアリングを通じて、実態に即した課題を可視化していきます。

たとえば以下のような質問を活用することで、業務の中に潜む“グレーゾーン”を洗い出すことが可能です。

  • 「この1年間で、判断に迷った経験はありましたか? その内容は?」
  • 「お客様対応で気になっているルール上の曖昧さはありますか?」
  • 「社内のルールが現場の実態に合っていないと感じたことはありますか?」

こうした聞き取りから得られる情報は、組織固有のリスク特性を把握し、現場にフィットした研修設計の出発点になります。

テーマの優先順位をつける

リスクを洗い出した後は、それらの中から研修で優先的に扱うべきテーマを選定します。この際に有効なのが、全社的なアンケート調査です。社員が日常業務で直面している課題や、不安に感じている法的・倫理的判断についての声を可視化することで、「今、組織がどのようなリスクに敏感か」を把握できます。

例えば、情報漏えいリスクに対する関心が高ければ、SNS利用ルールやクラウド共有に関する教育を重視すべきですし、職場内のパワハラが問題になっている部署があれば、ハラスメント防止研修を重点的に配置するべきです。アンケートから得られる“現場感”は、形式的な研修にリアリティと説得力をもたらします。

過去に発生した事例を取り上げる

最もインパクトのある研修素材の一つが、自社で実際に起こった(あるいは起こりかけた)コンプライアンス違反の事例です。こうした事例は、受講者にとって他人事ではなく、「自分にも関係する問題」として捉えやすく、研修の臨場感と当事者意識を高めます。

ただし、事例を扱う際はプライバシーや人間関係への配慮が不可欠です。具体的な部署名や個人名は伏せ、関係部署には事前の確認と了承を得た上で使用する必要があります。もし自社に該当する事例が見当たらない場合は、同業他社の公開事例を題材にすることで、近接するリスクに対する意識づけを図ることができます。

新入社員が起こしがちなコンプライアンス違反を扱う

新入社員は業務やルールへの理解が浅く、善意であっても結果的に違反を引き起こすことがあります。こうした“悪意なき違反”を防止するためには、教育段階から具体的な事例を通じて注意点を明確に伝えることが重要です。

たとえば以下のようなケースが代表的です。

  • SNSに職場内の写真を無断投稿し、機密情報が写り込んでいた
  • メール送信時のBCC機能の操作ミスにより顧客の個人情報が漏洩した
  • 資料廃棄時の確認漏れにより、外部に社外秘情報が流出した

これらの違反は、経験の浅い社員に多く見られるものでありながら、企業の信頼性を大きく損なうリスクをはらんでいます。研修では「なぜそれが問題なのか」「どうすれば防げるか」を丁寧に解説し、日々の行動に落とし込んでもらう工夫が求められます。

コンプライアンス研修の失敗につながる注意点とは?

効果的なコンプライアンス研修を行うには、形式的な実施にとどまらず、受講者にとって実感を伴う学びを提供することが欠かせません。一方で、設計や運営の段階でいくつかの落とし穴が存在します。ここでは、研修の効果を低下させる原因となりうる典型的な失敗ポイントを整理し、事前に避けるべき注意点を具体的に解説します。

内容が抽象的すぎる

コンプライアンス研修でよくある失敗の一つは、取り扱う内容が抽象的すぎて、受講者にとって理解しにくいことです。例えば「倫理的に行動しましょう」や「ルールを守りましょう」といった表現だけでは、何が具体的にNGで、どのような行動が求められるのかが曖昧なままとなってしまいます。

こうした研修は、「自分には関係ない」といった他人事意識を生みやすく、実際の業務で注意を払うべき場面でも意識が向かなくなります。結果として、軽微な違反や無自覚なコンプライアンス逸脱が生じやすくなり、企業にとって重大なリスクにつながる恐れがあります。受講者の職種や業務に即した具体例を交えた説明が不可欠です。

扱う内容が古い

法改正や社会情勢の変化を反映していない古い内容の研修も、受講者の関心を損ない、コンプライアンスの誤解を招く恐れがあります。時代によって「当たり前」とされる行動や価値観は大きく変化しており、かつて問題視されなかった行動が、現在では重大な違反とみなされることも珍しくありません。

例えば、ジェンダー表現やSNS投稿のリスクなどは、近年急速に重要性が増しています。こうしたテーマを無視したまま研修を行ってしまうと、現場での判断を誤る原因にもなります。常に最新のリスクと法制度を踏まえたアップデートを行い、研修が“今”の社会に対応していることが求められます。

関連の薄い事例を取り上げている

コンプライアンス研修で紹介される事例が、自社の業種や業務とかけ離れている場合、受講者の関心や理解が著しく低下します。例えば、製造業の社員に対してIT業界の不祥事を紹介しても、自分の仕事に引き寄せて考えることができず、「自分には関係ない」と認識されてしまいます。

当事者意識が欠如した状態では、研修の学びは一過性の知識で終わり、実務の中で活かされることがありません。可能な限り、自社の業務フローや顧客対応と関連する事例を取り上げ、「このような判断ミスが自分にも起こりうる」という視点を持たせることが重要です。

研修だけ行い、振り返りがない

研修を実施しただけで満足し、受講後の振り返りやフォローアップが行われない場合、せっかくの学びが業務に定着せず、コンプライアンス意識が長続きしません。人は一度学んだことでも、使わなければすぐに忘れてしまうため、継続的な見直しの機会が不可欠です。

例えば、研修後に理解度テストやグループディスカッション、数週間後の再確認アンケートなどを実施することで、記憶の定着と実践力の向上が期待できます。また、振り返りの過程で「違反が起きたら誰が困るのか」「自分はどうすべきか」といった思考を深めることが、行動変容のきっかけにもつながります。

現場で活かせない

コンプライアンス研修の内容が法律解釈や理念の説明に終始し、実務に直結しない場合、現場での判断や行動には結びつきません。どれだけ立派な理念や規範を学んでも、それをどのように実践すべきかが明示されていなければ、違反の防止にはつながらないのです。

例えば、「顧客情報は適切に管理すること」といった抽象的な表現だけでなく、「具体的にどのような操作や対応がNGか」「現場でありがちな失敗は何か」といったケースベースの指導が必要です。現場で活かせる研修とは、日々の業務に即した判断スキルや、ルールの具体的運用を伝えることにあります。

コンプライアンス違反は企業経営につながる重大リスクである

コンプライアンス違反は、単なる「ルール違反」では済まされません。企業の信用・財務・人材にまで大きな影響を及ぼし、最悪の場合は企業存続すら揺るがす可能性があります。ここでは、企業にとって致命的ともなり得るコンプライアンス違反がもたらす3つの重大リスクについて解説します。

1. 経営・財務的損失(罰金・損害賠償・売上減)

コンプライアンス違反が法令違反に該当する場合、行政処分や罰金、顧客や取引先からの損害賠償請求といった直接的な経済的損失が発生します。また、取引停止や業務停止命令を受けることで、売上や利益が急激に落ち込むケースもあります。さらに訴訟や調査対応にかかるコストも重くのしかかり、財務体力を大きく削ぐ要因となります。

2. 社会的信用失墜(報道・レピュテーションリスク)

一度コンプライアンス違反が報道されれば、企業のブランドイメージは大きく損なわれます。インターネットやSNSによる情報拡散が加速する現代においては、地域・業界を超えて批判の的になることも珍しくありません。いわゆる「レピュテーションリスク(評判リスク)」によって、消費者や投資家、取引先からの信頼が失われ、事業の継続そのものが困難になる事態も起こりえます。

3. 人材流出・社内不信(従業員のモチベーション低下・離職)

不祥事が発覚すると、社内のモチベーションが著しく低下し、「この会社にいて大丈夫か」という不安から優秀な人材の離職につながるケースもあります。また、経営層や管理職が問題を隠蔽していた場合などは、現場との信頼関係が崩壊し、社内不信が広がる危険もあります。コンプライアンスは社内文化と直結しており、内部統制の弱体化にもつながるため、影響は長期的かつ深刻です。

【実例】不正会計で失墜した大手電機メーカーのケース

ある大手電機メーカーでは、数年間にわたり巨額の損失を隠し続けた結果、金融庁からの課徴金命令を受けただけでなく、株価は暴落、数千億円規模の時価総額が消失しました。また、経営陣の辞任、社内の混乱、人材流出も相次ぎ、長期にわたって企業再建を余儀なくされました。このように、コンプライアンス違反は単発の出来事ではなく、組織全体に波及するリスクを伴います。

コンプライアンス研修なら『推す!研修』

オスケンが提供する『推す!研修』は、企業の実態に即したコンプライアンス研修を設計・実施することに重点を置いた教育支援サービスです。研修パッケージではなく、ヒアリングを通じて企業の現状・課題を整理した上で、事例や演習も含めた実践的な内容を個別に設計します。

特に「行動変容」を目的に、受講者が“自分ごと”として捉えられるよう、業界性や職種特性、過去事例などを踏まえて教材を選定。受講後のアンケートや理解度テスト・フォローアップの提案まで含めて、継続的な定着を支援します。

研修の内製化に向けた設計支援や、法令改正対応型の外部講師派遣なども柔軟に対応可能です。コンプライアンス違反の予防だけでなく、企業文化の醸成や風通しの良い組織づくりを支える仕組みとして、ぜひ一度ご相談ください。

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